初めて出場したロングのレース「全日本トライアスロン皆生大会」の失敗をたどる記録⑬
前回までのあらすじ―。
ふとしたことから思い立った全日本トライアスロン皆生大会出場。奇跡的に抽選に受かり、わずか練習2か月で挑んだ大会。山形から1000kmを車にバイク他一式を積み込んで自走して会場入りした大会は、最高気温36度を超える灼熱のレースだった。
バイクパートに移行し、50kmまでは順調な滑り出し。しかし―。
バイクパートが50km地点を迎えたあたりから、いきなり来た。
それまで順調すぎるくらいに順調だった道のり。遅いながらも確実にクリアしたスイム。思った以上のペースで走れるバイク。しかし、そのペースがメッキに過ぎないことが突然明らかになった。
呼吸はそれほど辛くないのに足が重い。そして何より、ロングライドで100kmを走ったころのような「どんより」とした疲れが全身を包んでいる。この感覚、バイクのロングライドをした経験がある人ならわかると思うんだけど、特にどこかがきついわけでも足が痛くなったわけでもないのに、ペダルをこいでいられない感じ。
ほんの数分前までは、ボランティアの皆さん全員に返事をしていたのに、急にそれが億劫になる。声が出ない―。
スタートから約4時間。今にして思うと、これがレース前に蓄えたエネルギーが切れたタイミングだったんだと思う。
もちろん、バイクパートに入ってからはきちんと補給をしていた。先輩選手のブログで、レース中、1時間に吸収できる糖質の量は40gが限界ー。と書かれてあったので、1時間に280kcalのエネルギー補給を計算し、30分おきにジェルを1つ口にしていた。
でも、この時の状況というのは、例えばの話、体内に100リットル分のエネルギーを蓄えていて、1分間当たり2リットルずつ消費していた時に、毎分1リットル分だけ補給をしていたら、100分後に体内に蓄積されているエネルギーがゼロになった・・・というようなものだと思う。
だから、これまで同様エネルギーの無駄遣いをしていると、もう貯金がすっからかんになっているので、同じことはできませんよー。とカラダに言われているような状況だ。
したがって、ここから先は1分間に1リットルの消費エネルギーのペースで行くか(ペースを落として補給と消費量の均衡を図る)、脂肪を燃焼させて1分間に1リットルのエネルギーを絞り出し、同じペースで行くかしかない。
けれど、これまでのレース中は糖質を主のエネルギーにしていたので、脂肪燃焼サイクルにうまく入れていなかったため、こうした苦しい状況になってしまったんだと思う。
たぶん、ロングのレースに出るような人たちは、普段の練習から脂肪燃焼サイクルがうまく回るような練習をしていたんだろうけれど、たった2か月半の付け焼刃だとそうはいかなかったわけです。
このあたりが、ロングのレースの本当に大変なところ。オリンピックディスタンスのレースや、ハーフマラソンのレースだとこういう状況に来る前にゴールできてしまうので、見えていなかった。
そして、こうした状況に追い打ちをかけるように、ここからコースの最高到達点に至る長い上りが始まった。
それまで25km前後のペースで走っていた時には感じなかった暑さが、時速10km前後になると途端にまとわりついてくる。地面からの照り返しが強烈だ。背中を直火であぶられている上に、下から蒸気で蒸しあげられているような感じ。
午前10時の気温は32度。上り坂に入る前に2本のボトルに満タンにしていた水は、すでに1本は空になり、もう一本も半分くらいしか残っていない。初めての参加なのでこの先どこまで上りが続くのかが分からず、水を十分に飲めていない。最初の方で体を冷やすのに使いすぎたみたいだ。
途中、気持ちが悪くなってくる。少しだけど吐き気もしてきた。熱中症になりかけているサインだ。やばい。水を飲む。でももうちゃぷちゃぷという音がボトルの底の方でするだけ、ほとんど飲んでしまった。
次のエイドステーションはいつなんだろう。ああ、前を走っている人たちが皆バイクを降りて歩いている。木陰で倒れこんでいる人もいる。ああ、木陰というか日陰が欲しい。でも道路の上には全く木陰が無い。山道なので民家もないし、そのために水を分けてもらうこともできない。
ああ、歩こうかな。これは厳しいかもしれない。水もついになくなってしまった。仕方ない、ちょっと早いけどジェルを飲んで水分を補給しよう。
うげっ。口の中がねばねばする。つばも出てこない。そういえば、汗かいてるはずなのに背中とかサラッさらに乾いてる。
ああ、本当にもう限界だ。本当にやばいぞ。あれ、救急車が止まっている。ああ、駄目だったんだな。僕もそうならないようにしないと。迷惑かけられないからな。次の交差点曲がってもまだ上り続いていたら一旦歩こう・・・。
朦朧とする頭で、こんなことを考えながら、なぜか立ち止まらずにペダルをこぎ続けた。
ーそんな時、ボランティアの声が聞こえた。
「あと200m上ったら下りだぞ」
天の声だ―。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
人生、曇り時々晴れがいい。
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